ブリッジルーツの
日本・中国・韓国見聞録

代表弁護士  橋本吉文

執筆協力:中国人弁護士 厳 逸文

ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録代表弁護士 橋本吉文

【第57回】中国「上海自貿区」へ投資に行く?


 2013年9月29日、中央政府は、中国経済の改革・開放を深化し、「10年後の中国の在り姿」を描くことを目的として、「中国(上海)自由貿易試験区」(以下「上海自貿区」という)を設立した。外資企業、特に日系企業が中国から撤退しつつある現状の中で、外国投資家は上海自貿区に熱い視点を注ぎながら、実際の投資に対して、慎重に静観している姿がうかがわれる(2014年9月中旬まで、上海自貿区の新設企業数は1.2万社を超えたが、そのうち、外資企業数は1677社で、全体の13.7%にすぎない)。

 今回は、上海自貿区の設立から1年が経過した現在、これまでの実務状況を回顧し、上海自貿区への投資に関する中国政府の判断に対して、一文を提供したい。

1.外資参入規制の緩和について 

 上海自貿区で一番注目される点は、外商の直接投資について、ポジティブリスト方式から、ネガティブリスト方式に転換する点である。すなわち、これまでは「外商投資産業指導目録」(ポジティブリスト)に記載されない業種は基本的に認められないというポジティブリスト方式であったが、上海自貿区が設立されてからは、ネガティブリストで制限・禁止されない分野であれば、外資は原則的に参入可能となった。2013年に、自貿区が設立された当時のネガティブリストは、190項の制限・禁止分野が定められていたが、2014年7月に公布された最新のリストでは当該リストは139項目まで縮小された。そして、自貿区設立1周年の日に、中国国務院により、更に31項目をネガティブリストから除外する決定が公布された。

 また、投資可能な分野の拡大の外、投資手続きの簡素化も自貿区の特徴とされた。投資プロジェクトの申請に対して、従来は事前許認可制であったが、事後届出制に変更された。会社設立についても、登録資本の支払方式を払込実額登記制(実際に払い込んだ資本金を登記する)から払込引受額登記制(全出資者が払込を引き受けた出資額を登記する)に変更するとともに、企業に関する年度検査制度も年度報告公示制度(企業が自主的に報告・公示を行う制度)に変更した。2014年3月に施行された新会社法により、これら変更の一部は、自貿区から中国全国に拡張されたので、自貿区のセールスポイントとは言えなくなったが、設立手続きにおけるワンストップサービス化は依然として自貿区の特徴と思われる。

2.金融自由化について 

 上海自貿区内の金融自由化に応じて、外貨規制が緩和されている。金融自由化の第一の注目点としては、2014年3月1日より自貿区内の小口外貨預金(300万ドル未満)金利の上限規制が撤廃され、同年6月27日には、規制撤廃地域が上海市全域まで拡大された点があげられる。加えて、2014年6月18日より、自由貿易口座に関する銀行業務が開始されたことは最も期待された改革と言える。自貿区内の企業は、区内を含む上海市内の金融機関で開設した自由貿易口座と海外の口座との間の資金振替はクロスボーダー取引とはみなされず、自由な資金振替が可能になった。しかし、自由貿易口座と中国国内の口座との間での資金流動はクロスボーダー取引とみなされる点は注意しなければならない。

 その他、クロスボーダーでの人民元決済に関する手続きの簡素化等も金融自由化の成果と見られる。

3.通関手続きの簡素化について 

 また、通関手続きが簡素化された。例えば、貨物の輸入について、「先入区、後通関(先に貨物を搬入、後で通関手続き)」が認められることになった。この「先入区、後通関」は、従来の「先通関、後入区」方式に比べて通関日数や物流コストが減少することから、企業にメリットをもたらしている。また、関税の集中申告制度や一括納付が認められるようになり、区外の企業に出荷する度に税関へ報告し、関税を納めるといったコストが軽減された。

 上記一部の規制緩和は、2014年8月より、自貿区外の一部の上海地域(浦東、松江、普陀、徐匯区)まで拡大された。

 

4.税金優遇措置について

 さらに、以下のような税金優遇措置が挙げられる。まず、資産再編取引において非貨幣制資産での対外投資等により発生した資産価値の増加部分は、5年の期限を超えない範囲で所得税の分割納付が可能になった。また、自貿区内の製造業及び製造関連のサービス企業が輸入した設備等について、免税等措置が行われている。しかし、期待された企業所得税の減免が実施されない点から鑑みると、税金の面において、自貿区の魅力はそれほど大きいものではないとも言える。

 上海自貿区の過去1年間の実績を踏まえ、重慶、天津、広東等の各都市も、相次いで自分たちの都市に第2の「自貿区」を設立してほしいと中央政府に提案しているので、今後の中国自貿区の行方に引き続き注目したい。

以 上


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