ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

 【第63回】転ばぬ先の労働法


                   弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ 

             弁護士 秋 山 理 恵

 

―第7回:口頭による採用内定後,これを解約したことが不法行為に当たるとされた事例(福井地裁平成26年5月2日判決)―

 

1 事案  ※本テーマに関係するところのみ抜粋しています

  1.  Xは、勤務先が60歳定年であり,60歳になると給与が下がる等と聞いていたため,転職を考えていたところ,Yの求人情報を得たため,H23.12.15に,Yを訪問し,Yの社長と面談しました。その際,社長からは,Xのこれまでの職務経験や現在の業務内容,Yの目標や方針を説明し,Xの入社後の業務の内容は現在の業務内容と同様であること等の説明がありました。また,勤務条件についても話題に上り,社長からは,労働時間が午前8時~午後5時まで,午後6時30分以降は25%割増残業代であり,通常1日当たり3時間残業があること,ボーナスがないこと,Yに定年制はない旨説明し,Xからは基本給25万円+法定残業代を求め,社長はこれを了承しました。そして,社長はXに入社時期を尋ね,できるだけ早く来てほしい旨述べて名刺を交付し,Xの勤務先退職までの途中経過とYへの入社時期を報告するよう依頼しました。
  2.  その後,Xが勤務先へ退職願を提出してこれが受理され,H24.2.17にYを訪問したところ,社長は,「それはよかった,3.20過ぎから来れるのう」等と言っていました。
  3.  そして,H24.3.17に,Xが入社準備のため,履歴書等を持ってYを訪問したところ,社長からハローワークからのトライアル雇用の紹介状を持参するよう求められたため,H24.3.21に,Xはハローワークへ行き同紹介状の交付を求めました。しかし,ハローワークからは,Xは対象外であるため,トライアル雇用の紹介状を交付できないと言われ,一般の紹介状を交付されました。Xはその旨,社長に説明しましたが,社長から再度トライアル雇用の紹介状を取得するよう依頼されたため,H24.4.9に再度ハローワークへ赴き,同紹介状の取得を求めましたが,取得できませんでした。そして,ハローワーク職員に,社長に電話してもらい説明してもらいましたが,口論となってしまいました。
  4.  その直後,XはYを訪れたところ,社長は,トライアル雇用紹介状の交付を受けられなかったことについてXを非難し,Xを採用してもトライアル雇用にかかる補助金を受給できないので,Xの給料から補助金の分を差し引かせてほしい旨,申し入れました,Xは,譲歩しても月額2万円までしか出せない旨回答したところ,社長は,追って連絡すると述べました。
  5.  その後,H24.4.13に,XのもとにY不採用通知が届きました。不採用理由は,勤務先の退社理由についての質問に対するXの答弁で,勤務先の社長等を中傷したこととのことでした。
  6.  そこで,Xは,採用内定をもらって,勤務先を退社したのに,Yがこれを取り消したために損害を被ったとして,約735万円の損害賠償請求を求めました。

 

2 裁判所の判断

 裁判所は,以下の各事実に照らせば,

  • H23.12.15の面談の際,①Xが将来勤務先を退職してYへ入社すること,②労働条件として,YがXに対して基本給月額25万円を支給し,別途法律に従った残業代も支給することを内容とするXY間の労働契約が成立したものというべき
  • 不採用通知は,内定を解約する旨の表明になるが,これは社会通念上相当な理由なく解約したというべきであるから,不法行為を構成する

として,YはXに約250万円を支払えとの判決をしました。

 

3 ポイント

 いわゆる内定は,始期付,もしくは解約権留保付きの労働契約と解されており,会社が恣意的に取り消した場合は,労働者からの不法行為に基づく損害賠償請求が認められます。本件は,内定通知書等書面を出しておらず,口頭の約束のみで内定が認められており,参考になります。

 

4 転ばぬ先のチエ

 2016年卒の学生は2015年3月から就職活動が解禁とのことですが,経営者・人事部の皆さん,採用面接の際,軽い気持ちで「君はわが社の期待の星だ」等と言ってしまうと,後々取り返しのつかないことになる可能性があります。採用面接をする際は、十分にご留意いただければと思います。

 以  上

 


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