ブリッジルーツの
日本・中国・韓国見聞録

弁護士 李 武哲

(執筆協力:弁護士 金 佑樹・弁護士 宮川 峻)

 

【第70回】「韓国における公益通報制度」

1.はじめに 

 昨今、日本の会社でもコンプライアンスの重要性が叫ばれています。コンプライアンス体制の構築の一環として、会社内部に従業員からの相談、通報窓口を設けられている会社もあるかと思います。

 今回は、日本の公益通報者保護法を概説した上で、韓国における公益通報制度を日本法との比較の観点から考えてみたいと思います。

2.日本の「公益通報者保護法」の概要

 日本では、2000年前後に続発した大手企業による不祥事が従業員等の内部告発により発覚したことをきっかけとして、内部告発制度の法制化が進められることとなりました。2006年4月1日から施行されている「公益通報者保護法」の概要は、以下のとおりです。

  1.  法の目的は公益通報者の保護とされています。
  2.  保護される通報者は労働者に限られます。
  3.  通報対象となる事実は、国民の生命、身体、財産、その他の利益の保護に関わる特定の法律に違反する法令違反行為であって、刑罰が規定されているものとされています。刑法、食品衛生法等がこれに当たり、2015年4月1日現在、449本の法律が対象となっています。
  4.  通報先は、労務提供先、行政機関、その他外部機関等とされています。
  5.  通報者の保護内容として、公益通報をしたことを理由とする解雇の無効(第3条)、労働者派遣契約の解除の無効(第4条)、降格、減給その他不利益な取扱いの禁止(第5条)が定められています。

3.韓国の公益通報制度

 韓国の公益通報に関する法律は、公共部門と民間部門を対象とするものとで、それぞれ別に規定されています。

 公共部門については、政治家や官僚の不正に対する世論の批判を受け、2001年に腐敗防止法が制定され、2002年1月末に施行されています(2008年、より内容を強化した「腐敗防止並びに国民権益委員会の設置及び運営に関する法律」の制定に伴い廃止)。

 民間部門については、2011年3月に「公益申告者保護法」が制定され、同年9月に施行されています。同法施行後、公益通報の件数は年々増加しており、2014年は約9000件にも上りました。

 以下では、民間部門を対象とする「公益申告者保護法」について、日本法との比較の観点から、その相違点について説明します。

  1.  法の目的は、公益通報者の保護のみならず、通報の支援、奨励にまで及んでいます。そのため、日本法から一歩進み、通報に対する報奨金や通報を行ったことによる損害の救助金支給が規定されています。報奨金の支払いは同法施行後年々増加しており、2014年は約4億ウォンが支払われています。
  2.  通報者は、労働者に限定されず、誰でも行えます。韓国では、内部者による告発は韓国の儒教思想による心理的抵抗があるのか、公益通報の中で内部者によるものは極めて少ないものとなっています。反面、報奨金目的で公益通報を専門に行う者まで現れており、公益通報の半数が専門通報者によるものといわれています。
  3.  通報先は、企業の代表者、行政機関等とされていますが、実際には、同法を所管する国民権益委員会への通報が中心となっているようです。
  4.  通報者の保護内容としては、日本と同様に不利益な取扱いの禁止のほか、身辺保護措置や通報者が不正行為に関与していた場合の責任の減免が定められています。
  5.  日本とは異なり、本法に違反した事業者に対する罰則規定を設けています。

4.最後に

 日本、韓国の公益通報制度とも、法制化されてからそれほど時間が経っておらず、今後の各国の実情に合わせた改善が重要であると考えられます。特に、日本では公益通報制度のさらなる充実を求める声が高まっており、通報の奨励や、罰則規定など、日本よりも一歩進んだ内容を持つ韓国の制度や運用状況は大いに参考となるものと思います。

以 上

 


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