ブリッジルーツの
日本・中国・韓国見聞録

代表弁護士  橋本吉文

執筆協力:中国人弁護士 厳 逸文

ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録代表弁護士 橋本吉文

【第73回】外資企業為替決済の自由化


 周知のとおり、従来中国においては、厳格な為替制限が設けられている。外資企業は、出資・増資等の名目で、海外から中国にある企業の資本金口座へ送金した外貨を、自由に人民元へ換金することができない。実際の取引を行う度に、取引に関する支払分のみ為替決済ができる。いわゆる、「支払分為替決済制度」が実行されている。

 2014年より、外資規制に対する改革・緩和の一環として、上海自貿区を皮切りに、中国全国の約17つの経済・金融改革特区において、為替制限の緩和措置が行われた。その緩和措置のうち、「支払分為替決済制度」が「意向決済制」へ変更されたことは、外資企業にとっては、いいニュースだと思われる。この措置により、企業は、「支払分為替決済制度」に別れを告げ、資本金の為替決済タイミングを自由に選ぶことができるようになった。

 その後、2015年4月8日、中国国家外貨管理局は、「外商投資企業の外貨資本金の決済管理方式の改革に関する通知」(以下「通知」という)を発布し、上記措置の範囲を全国にまで拡大した。本「通知」は、同年6月1日より施行された。

 この改革により、外資企業にとっては以下のようなメリットが考えられる。

1.制度改革のメリット 

(1)取引の迅速性の向上

 従来は、取引が確定されない限り為替決済ができないため、契約書を締結した後、又は、請求書が届いた後、銀行にて為替決済手続をしなければならなかった。新制度の下では、取引交渉の段階でも、更には、実際の取引がない場合でも、為替決済ができるため、外資企業は、支払段階において、事前に換金された人民元をもって即時に支払うことができるようになった。このように、外資企業は、支払の迅速性の向上により、内資企業に対する競争力を高める結果になると思われる。

(2)為替コストの削減

 この数年、円安が原因で為替コストで苦労する日系企業が数多く存在している。為替レートが日々高まっていく状況下、会社の資本金口座に高額の資金があるのに、換金できない事態は企業にとって深刻な問題であった。今回の制度緩和により、企業は、自由に換金タイミングを決めることができるようになったため、無駄な為替コストを抑えることが可能になった。

(3)持分投資の利便化

 外資企業が為替決済で取得する人民元資金を、中国国内で投資しやすいように利便性を図ることも「通知」の一つの目的である。従来、外商投資企業が為替決済で取得する人民元資金をもって、中国国内において投資をすることはできなかった。「通知」により、投資を主要業務とする外商投資企業(外商投資性会社、外商投資創業投資会社及び外商投資持分投資会社を含む)は、外貨資本金を人民元に換金し、それを投資することができるようになった。当然、従来のように、外貨で直接投資することも可能であるため、外資企業は、為替コストを勘案し、外貨か人民元かによる出資を選択することができるようになった。

2.留意点 

 しかし、資本金の使用に対する制限(ネガティブリスト管理)も設けられているため、為替決済をする際、以下の点に留意しなければならない。為替決済後の人民元の使途については、企業の経営範囲内の支出に限定され、下記のような資金使途は認められない。

(1)直接或いは間接的に国家法律法規が禁止する支出

(2)直接或いは間接的に証券投資に用いること(法律にその他規定がある場合を除く)

(3)直接或いは間接的に人民元委託貸付の実行(経営範囲で許可されている場合を除く)

(4)企業間貸借(第三者立替を含む)の返済及び第三者に転貸した銀行借入の返済

(5)非自家用不動産購入の関連費用支払に用いること(外商投資不動産企業を除く)

以 上


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